精神的犯罪者=私へ
人生ずっと順調で、負けを知らないタイプの人がたまにいる。
小さい頃から人間の出来た親に育てられ、誰からも好かれ、友人も多く、美人と結婚し、いいマンションに住んで、仕事では一目置かれる存在。誰からも羨まれる(とされる)存在。
挫折を知らないのだ。
嫉妬もないことはないのだけど、誤解を恐れずいうなら、ぼくは、自分がそんなタイプの人間でなくてよかったと思う。
そういう完璧人間も世間には必要なのだろうけれど(彼・彼女の日々の頑張りも知っている)、でもその人生の物足りなさを思うと、自分が完璧人間タイプでなくてよかったと思ったのだ。
人生を台無しにするくらいの失敗をすること。
死ぬしかないと本気で考えてしまうこと。
それが人としての奥行きを与えるんじゃないかと思う。
その奥行きは、見る人が見ればわかる。
「見る人」とは、同じ苦しみを経験した人だ。
思い通りにいかないことに悩み、自分という存在に死を思うほど苦しみ、このままいくと犯罪者になるんじゃないかというくらいの懊悩を抱えて、日々くよくよし、虚しくなり、胸に重たいものを貯めてゆく。
そういう人間、いや、それができる人間でよかった。
そして、そういう人間を肯定できるようになってよかったと思ったのだ。
暗い悲しみをマイナスのものとして排除せずに、それを良いとも悪いとも言わずに、ただあるがままに受け入れることができることが、一番大事なんじゃないかと、最近思うようになった。
生きていて悪い人間なんていない。
そんな偉そうなこといえる立場ではないけど、これは自分への言葉でもある。